日本人は、【カワイイもの】が好きである。
実は、日本人以外の人、欧米人たちだって、【カワイイもの】が好きなのだろう。ただ、何を【カワイイもの】と感じるか、が違うのだとは思う。
日本人も、欧米人も、共通して【カワイイもの】と認識しているものは、ある。
たとえば、くまの人形。所謂、テディベアである。
テディベアの「テディ」とは、セオドア・ルーズベルトのこと。
「セオドア」という名前は、神の贈り物という意味の「テオドロス」から派生したとかで、短縮させて、「テオ」とか「セオ」とか「テディ」とか「テッド」とかを愛称にするのだそうだ。
割と知られた話だが、ルーズベルトが趣味の熊狩りに出かけたのに全く獲物を仕留めることができなかった時、同行したハンターが、弱った熊(小熊だったという説あり)を追い詰めたところで、とどめの一発を譲ろうとした。しかし、『瀕死の熊を撃つのはスポーツマン精神に反する』と言って撃たなかった。これを新聞記者が美談として報じたことがきっかけで、くまの人形がテディベアと名付けられて売られることに……。
要するに、忖度と提灯記事が生み出したものなのだが、世界的に大ヒットしてしまったわけである。
一方で、欧米には、瀕死の動物は安楽死させてやるのが慈悲、という価値観があったりするから、変な話である。
とにかく、くまの人形は愛玩物として広まり、【カワイイもの】の象徴となり、児童文学等に登場するに至る。
その代表が、A・A・ミルンの『クマのプーさん』であり、マイケル・ボンドの『くまのパディントン』である。面白いのは、どちらも米国ではなく、英国で誕生していることだ。そしてどちらも、食いしん坊で、少し抜けていて、おとなしい。
ところでパディントンの方には、少しばかり、暗い過去がある。
「暗黒の地ペルー」から送られてきた密航者だったのである。
当初、作者ボンドは「暗黒の地アフリカ」からロンドンに来た設定にする予定だったが、アフリカにはクマがいないことを知らされ、パディントンの出身地はメガネグマの棲むペルーに変更したという裏話があったりする。
アフリカについてよく知らないくせに、南米やアフリカに「暗黒の地」という言葉を付けるのは、いかにも英国人だ。
しかし、南米からやってきた密航者は、英国の最高権力者からお茶会に招かれるという栄誉に恵まれた。エリザベス2世が逝去する3カ月前、2022年6月4日の即位70周年祝賀コンサートのオープニングで共演。そこでは、長年の謎であった【女王のハンドバッグの中身】が明かされるという、おまけも付いた。
本物の熊の実態とは、はるかにかけ離れたイメージを広げてしまった、【カワイイもの】。
実は密航者だという設定は、今年の日本においては、なんとも皮肉な事実だ。
熊と不法滞在者。どちらも、頭の痛い問題になってしまった。