日々のあれこれ

日々の暮らしの中で気になったことを書いておきます。

虫愛ずる画家

 『虫愛ずる姫君』という古典文学があることは知っていたが、実際に虫を好んで描いていた女性画家がいたことを、つい最近、知った。

 17世紀、つまりは、日本では江戸時代の前期の頃に、独・フランクフルトに生まれた女性画家、マリア・シビラ・メーリアンである。

 女性画家と書いたが、どちらかというと「昆虫学の先駆者」という側面の方が大きいかもしれない。同時代に昆虫の絵を描いた画家は他にもいたが、大概は成虫のみを描いていた。しかし、メーリアンの場合は、昆虫の生涯、卵から幼虫、さなぎ、成虫といった変遷を描いていた。

 しかも、珍しい昆虫に惹かれて、52歳で、南米大陸の国・スリナムに渡るという冒険までしているのだ。

 現代でも、そこまで行動力のある人物はそう多くはない。

 そして残された昆虫をはじめとする生き物の絵は、とにかく色が美しい。優れた観察眼を持って細密な美しい絵を描き続けた原動力は、何だったのだろうか?

 まだ、科学がそこまで権威主義的でなかった頃だからこそ、ひたすら好奇心に従って新しい発見を発信することができたと考えられ、タイミング的に幸運であったことは間違いないが、虫愛ずる気持ちが相当に強かったのだろう。

 この虫愛ずる画家の主要な資料はロシアにあるらしく、作品を見ることができる機会が得られるかは分からないが、記憶に留めておきたいと思う。

 

【参考資料】

キム・トッド, 屋代通子 訳「マリア・シビラ・メーリアン 17世紀、昆虫を求めて新大陸へ渡ったナチュラリストみすず書房, 2008.

中野京子「情熱の女流「昆虫画家」 メーリアン 波乱万丈の生涯」講談社, 2002.

ケイト・ハード, 堀口容子 訳「マリア・シビラ・メーリアン作品集 Butterflies」

ゲームと蝶

 海外の某ネット箱庭ゲームを続けているが、常設のミニゲームとして「蝶々捕獲」がある。

 蝶々を捕獲して、観察箱で一定時間観察し、その後、解放する、という流れになっているので、標本にしてしまうわけではない。昨今の環境保護的な配慮なのだろう。

 

 日本語訳がちょっと微妙なところもあるので、蝶の名前も正確に訳されていないかもしれないが、気になったので、ネット検索してみた。結果、実在の蝶をモデルにしているようだと分かった。

 アンフィトリオンモルフォ、アナキシビアモルフォ、ヒメシジミ(Plebejus argus)、ベーツタテハ(Batesia hypochlora)、キイロアサギマダラ(Parantica cleona)、ギリップスカバマダラ、ベニスカシジャノメ亜種(Cithaerias pireta aurorina)、クリメナウラモジタテハ(Diaethria clymena)、オオゴマダラ(Idea leuconoe)、キアゲハ(Papilio machaon)、ルリオビアゲハ(Papilio palinurus)、イカルスヒメシジミ(Polyommatus icarus)等々といった感じである。

 調べてもよく分からないものもあるので、完全な創作も混じっているのかもしれないが、なかなか面白かった。

 

 ヤママユガやニシキオオツバメガ、ヨナクニサン(Attacus atlas)が混じっているが、海外では、蝶と蛾の区別はあまり気にされないという事情があるのだろう。もっとも、ニシキオオツバメガは、一見、蛾に見えない蛾なので、分類というのは単純にはいかないところもある。

 

 ゲーム内では、ヒメシジミとギリップスを集めたいのだが、種類を絞って集めるのは難しい。楽しみながら、ゆっくり進めるのが吉、なのだろう。

超 国宝

 残り2週間ほどで、大阪・関西万博が閉幕するらしい。

 ガラケー使いの自分にとっては、参加資格すら無いイベントだったので、万博それ自体はそもそもどうでもよかった。まあ、イタリア館の充実ぶりに関しては、羨ましく思わなくも、否、かなり羨ましかったのだが、結局のところ足を運ぼうとは思えなかった。

 

 一方で、会場外で、なかなか面白そうな企画があった。

 関西の2つの国立博物館奈良国立博物館京都国立博物館が4月19日から6月15日に、それぞれ特別展を開催していたのだ。それが、「奈良国立博物館開館130年記念特別展 超 国宝展ー祈りのかがやきー」と、「大阪・関西万博開催記念特別展 日本、美のるつぼー異文化交流の軌跡ー」である。

 奈良博の方は、公的には万博関連としなかったようなのだが、実際のところ、京博と日程を合わせていたし、万博に乗っかるつもりはあったのだと思う。

 

 両方に行くことができればよかったのだが、いろいろあって、結局、片方の「超 国宝」にのみ出かけた。

 企画展に付けられた【超】には、時代を《超えて》遺されてきた国の宝という意味と、文化財保護制度としての国宝の基準に収まりきらない作品も含めることにした、という事情が含まれているらしく、国宝112点、重要文化財16点を含む143点の作品が前後半2期に渡って展示された。

 自分が出かけたのは後半の1日だけだったので、全ての作品を見ることができたわけではないのだが、さすがに力の入った企画展で、毎年秋に開催される「正倉院展」と同じくらい混んでいた。

 

 明治維新を経て、かなりの美術品が国外に流出してしまった残念な歴史があるにも関わらず、それでも、素晴らしい数々の作品・国の宝が国内に沢山遺されていること、それを間近で見ることができる機会があることは、本当に幸運なことだ。

 

 奈良博関係者の思い入れ満載の図録も、かなりの力作で、これが入手できただけでも、万博に感謝したい気分である。

 

 ただ、奈良博関連でいつも思う事なのだが、英訳に関しては、英語が決して得意ではない自分からみても、かなり残念。

 別にインバウンドに媚びる必要はないが、もう少し、センスの良い英訳ができる職員を採用したらいいのにと思う。

 Oh! KOKUHŌ

 これでなぜOKが出たのか、謎でしかない。

 9月も後半になって、日中はまだまだ暑いものの、今朝などは風が明らかに涼やかであった。待ちに待った秋の訪れである。

 歩道の植栽からはリリリという虫の声。

 もう蝉の声が聞こえてくることもない。

 

 「今年の夏は蝉の声が聞こえてこない」という話題が出ていたのは6月の後半から7月の初めだったと思う。

 「いやいや、環境の変化に合わせて蝉の活動時期がズレただけだ」とか、「そもそも梅雨がまだ明けていない」とかいう反論が出るに至って、ようやく朝方や夕方以降の気温が比較的低い時間帯に蝉の声が聞かれることが分かって、そういうことかと、あっという間に話題からは消えてしまったが、果たして、実際のところはどうだったのだろうか?

 

 専門家の検証はもう少し後に出てくるのだろうが、自分の感触では、やはり、蝉は減ってしまったように思う。

 というのも、所謂“セミファイナル”というやつを、今季は、まったく見ることもなく終わってしまったからだ。

 通勤等に使う道沿いには、そこそこ立派な庭をお持ちの戸建てがあったり、小さな公園や中学校があったりで、しかも歩道の端には街路樹が植えられたりしているためか、毎年、腹を上に向けてひっくり返っている蝉が路上に落ちている。もう完全に動かなくなっているものが大半だが、いきなりバタバタと動きだしたりする蝉も混じっているので、油断ができない。

 あれを“セミファイナル”と名付けた人のセンスというかユーモアには感心するが、実際のところ、心臓に悪かったりする。

 が、今年の夏は、歩道にも、集合住宅の階段の踊り場にも、落ちているのを見ることがなかった。

 

 蝉というのは、地下生活する期間は短い種では2年、長い種では17年で、成虫にになってからは1か月程度生きるとされている。昔は、2週間程度しか生きられないと言われていたように思うが、最近の研究では、もう少し成虫の寿命は長いという説の方が有力なんだそうだ。

 

 温暖化の影響が地中にまで及んでいるのか、それとも一旦は羽化するものの気温が高過ぎて活動できずに死んでしまったのか。

 数年後には、沈黙の春ならぬ、沈黙の夏が来てしまうのだろうか。

ゴッホ美術館

 蘭・アムステルダムゴッホ美術館が財政難に直面しているらしい。

 

 日本国内でも、2023年に国立科学博物館の運営費が足りないということで、クラウドファンディングを行ったことがあった。目標金額1億円で、9億を超える額が集まったと記憶している。

 一応、先進国を自認している国なのに、国立の博物館を維持する予算がまったく足りていないということに、半ば呆れたものであるが、こういったことは日本だけではなかったようで、他国でも、維持費を賄うために、いろいろ苦労されている施設の話題が、ぽつぽつ聞こえてくるようになった。

 

 が、しかし、「ゴッホ」である。

 美術館側の言い分では、政府からの資金提供が十分でないということらしいが、蘭政府は、同美術館に年間約1000万ドル(約14億7200万円)を支払っているという。施設の老朽化が進んでいるらしいが、「ゴッホ」のような人気画家であれば、美術館自体の収益だって相当にあるだろう。

 無尽蔵に資金が出てくるわけもなく、毎年1000万ドルの予算が付いていても足りないというのは、さすがにどうなのか?

 

 好みの問題もあるが、「ゴッホ」に年間1000万ドルを支払っているのなら、もう少し大事にしてもらってもいい絵画や芸術作品が、他にいくらでもありそうな気がする。

 

 ゴッホ財団は、『当財団は、ゴッホ美術館の建物・設備に対する必要な資金をめぐる問題を受け、ゴッホ作品の公開継続について深く憂慮している』という声明を出した。

 つまり、政府からの資金援助をさらに増やしてくれないのなら、美術館を閉鎖するということだ。随分と強気な態度である。

 生前、ほとんど絵が売れなかったゴッホ。残された遺産は、相当に金食い虫になってしまったようだ。

熊と不法滞在者

 日本人は、【カワイイもの】が好きである。

 実は、日本人以外の人、欧米人たちだって、【カワイイもの】が好きなのだろう。ただ、何を【カワイイもの】と感じるか、が違うのだとは思う。

 

 日本人も、欧米人も、共通して【カワイイもの】と認識しているものは、ある。

 たとえば、くまの人形。所謂、テディベアである。

 

 テディベアの「テディ」とは、セオドア・ルーズベルトのこと。

 「セオドア」という名前は、神の贈り物という意味の「テオドロス」から派生したとかで、短縮させて、「テオ」とか「セオ」とか「テディ」とか「テッド」とかを愛称にするのだそうだ。

 

 割と知られた話だが、ルーズベルトが趣味の熊狩りに出かけたのに全く獲物を仕留めることができなかった時、同行したハンターが、弱った熊(小熊だったという説あり)を追い詰めたところで、とどめの一発を譲ろうとした。しかし、『瀕死の熊を撃つのはスポーツマン精神に反する』と言って撃たなかった。これを新聞記者が美談として報じたことがきっかけで、くまの人形がテディベアと名付けられて売られることに……。

 要するに、忖度と提灯記事が生み出したものなのだが、世界的に大ヒットしてしまったわけである。

 一方で、欧米には、瀕死の動物は安楽死させてやるのが慈悲、という価値観があったりするから、変な話である。

 

 とにかく、くまの人形は愛玩物として広まり、【カワイイもの】の象徴となり、児童文学等に登場するに至る。

 その代表が、A・A・ミルンの『クマのプーさん』であり、マイケル・ボンドの『くまのパディントン』である。面白いのは、どちらも米国ではなく、英国で誕生していることだ。そしてどちらも、食いしん坊で、少し抜けていて、おとなしい。

 

 ところでパディントンの方には、少しばかり、暗い過去がある。

 「暗黒の地ペルー」から送られてきた密航者だったのである。

 当初、作者ボンドは「暗黒の地アフリカ」からロンドンに来た設定にする予定だったが、アフリカにはクマがいないことを知らされ、パディントンの出身地はメガネグマの棲むペルーに変更したという裏話があったりする。

 アフリカについてよく知らないくせに、南米やアフリカに「暗黒の地」という言葉を付けるのは、いかにも英国人だ。

 しかし、南米からやってきた密航者は、英国の最高権力者からお茶会に招かれるという栄誉に恵まれた。エリザベス2世が逝去する3カ月前、2022年6月4日の即位70周年祝賀コンサートのオープニングで共演。そこでは、長年の謎であった【女王のハンドバッグの中身】が明かされるという、おまけも付いた。

 

 本物の熊の実態とは、はるかにかけ離れたイメージを広げてしまった、【カワイイもの】。

 実は密航者だという設定は、今年の日本においては、なんとも皮肉な事実だ。

 熊と不法滞在者。どちらも、頭の痛い問題になってしまった。

女性画家

 時間潰しにネット記事を漁っていると、たまに、なぜこのタイミングで? という記事に当たることがある。

 8月14日配信の記事、ARTnews JAPANの『「偉大な女性芸術家」たち──ネッリら、再評価が進む12人の作品を一挙紹介』も、そうした記事の1つだ。

 

 内容は、1971年に美術史家のリンダ・ノックリンが、US版ARTnewsで『なぜ偉大な女性芸術家はいなかったのか』と題した記事を書き、その後、1976年に、ノックリンとアン・サザーランド・ハリスの2人による企画展『Women Artists, 1550–1950』が開催されたというものだ。

 38人のアーティストによる150作品の企画展は、ロサンゼルス・カウンティ美術館を皮切りに、オースティン、ピッツバーグ、ブルックリンを巡回し、大成功だったらしい。

 

 その38人の名前は、記事中には明記されていなかったが、とにかく、歴史の中で忘れ去られていた女性芸術家が、近年再び掘り起こされ、脚光を浴びてきているということらしい。

 記事中には、題にもあるように12人の女性画家、プラウティッラ・ネッリ(伊 1524-1588)、ラヴィニア・フォンターナ(伊 1552-1614)、クララ・ペーテルス(白 1587-1636頃)、アルテミジア・ジェンティレスキ(伊 1593-1653)、ジョヴァンナ・ガルゾーニ(伊 1600-1670)、ミカエリナ・ワウティエ(白 1604-1689)、ユディト・レイステル(蘭 1609-1660)、ルイーズ・モワヨン(仏 1610-1696)、ラッヘル・ライス(蘭 1664-1750)、ロザルバ・カッリエーラ(伊 1673-1757)、アデライド・ラビーユ=ギアール(仏 1749-1803)、ヘシーナ・テル・ボルフ(蘭 1631-1690)が紹介されている。

 

 ひょっとして、日本で、これらの画家の企画展でも開催されるのか? と思って、探してみたが、そういうことではないらしい。

 おそらく、この中で知名度が高いのは、ネッリとジェンティレスキの2人だろう。

 

 確か、ジェンティレスキは、『エリザベス女王の事件簿 バッキンガム宮殿の三匹の犬 』にも出てきていたはず。作中に登場する作品は架空のもののようだが、実際に、エリザベス2世のコレクションには、ジェンティレスキの【An Allegory of Peace and the Arts(平和と芸術の寓意画)】が含まれているという。

 

 機会があれば、見てみたいと思う。